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2.1.芸術と高分子の意外なカンケイ

優れた科学が排除しようとしているものを,優れた芸術は喚起しようとしている ―それは謎である.一方にとっては致命傷なのに,他方にとっては生命の源となる. ―ジョン・ファウルズ

とある本に載ってましたが、本当にそうでしょうか?芸術(音楽、絵画、彫刻、演劇、etc、、)は心や感性を使って主観的。一方、科学(自然科学、社会科学、人文科学、etc、、、)は理性・計量・論証なんかを使って客観的。う〜ん、こういう風に考えるとなるほど水と油のようです。でも、どちらに共通するものは、人間の創造物で人間の存在になくてはならないもの。芸術が無くても生きて行けるじゃん。って言ってもやっぱり無いとノイローゼになっちゃうんじゃないでしょうかね〜?それにこれまでの歴史の中で芸術が人間に及ぼした影響ってすごく大きいですよね。やっぱ必要不可欠。そんな中で、今回は芸術活動において高分子科学がどんな風に活躍しているのか、あと、固体物性がどう関係してるのか、ちょっとご紹介したいと思います。と思ったけど、僕芸術はほとんど知らない分野なんですけど(汗)水と油ではなくて、実は深く関わってるんです。

 身近な芸術のひとつとして「音楽」ってありますよね。僕も自分の部屋やお店、いろんな場所で毎日聞いてます。こういう所だと、大抵スピーカーを使って音を出してます。音が出る部分は「振動板」って言われている丸いやつですね。いい音を出すにはこの部分の材料物性が決め手です。スピーカーのしくみは、、、カット(爆)(どこかスピーカーメーカーのHPにでもあるかも。)
 で、材料には、軽くて(密度が小)、強度が大きくて(ヤング率が大)、共振しにくい(内部損失が大)材料が最適だそうです。軽いと厚くすることができるということで、それは結局強度を上げることができるってことで、結局は「強度が大きくて」「共振しにくい」物性を持つ材料を探せばいいってことになります。そこでよく使われている材料がコーン紙。そう、紙です。これはもちろん高分子です。でも、高音用のスピーカーはチタンとか使ってるみたいですね。実際、強度が大きくて、共振しにくい材料は少ないんで、しかたなく、多くのスピーカーでは強度が小さくて共振しにくいコーン紙を低音用に、強度が高くて共振しやすい金属箔(チタン、アルミ、ベリリウム等)なんかを高音用にというようにそれぞれの特徴を生かして欠点をカバーしてるみたいです。
 まあそんで紙は針葉樹、広葉樹、和紙、麻類、ケナフ、藁、竹、、、などの原材料と作り方を組み合わせることができて、最適な音質になるように微調整できるんです。こりゃ便利!、、、、とは言うもの、でもでも実は、紙を作ってるメーカー、産地、樹の種類、作り方を同じにしても、材料の木が南斜面で育ったやつと北斜面で育ったやつとではその音響特性がまったく異なるそうです。それに湿度なんかも影響しちゃいます。困った。。。同一の物性を持つ振動板を作るには。。。ということで、合成高分子の登場です。たとえばPET。これはヘッドホンの振動板なんかで使われているようです。あとはポリスチレンを酢酸ビニルで被膜した「ベクストリン」や、ポリプロピレンなんかがよく使われている。らしいです。さらに強度を大きくするためにはFRP(合成「高分子繊維強化プラスチック)なんか使っちゃうようです。そんなことでより原音に忠実に、よりクリアに音楽を楽しむために高分子科学は頑張ってます。

 ↑こんなにもオーディオスピーカーに文字数使ってしまったんですが、「音楽」を表現する手段である「楽器」にも高分子である木材で作られているものがありますよね。例えばバイオリンやピアノなんかですね。ピアノの心臓部分である「響板」にはドイツトウヒ、スプルース、その土台にはブナ、カエデといったそれぞれの特性を持った材料が使われているみたいです。固体物性論を勉強すれば、有名なストラディバリウスに使われている音響特性、物理特性を調べて、同じ材料物性を再現することも可能です。(もっとも材料だけの問題じゃないと思いますが、、、)
 昔は熟練した職人さんが、木の節や年輪を見たり、コンコン叩いて音の高さや残響を聞いたりして材料を選んでましたが、固体物性の研究が進んだ現在は、比動的ヤング率(動的ヤング率/比重)が大きくて、内部損失が小さな材料が適していると言われ、数値化されています。その値を参考に器械を使って人ではまねできないスピードと正確さで選別されているようです。
 それから、ピアノとピアニストを繋ぐ、ピアノの白鍵。これは象牙が吸水率が高くて爪と同じかちょっと柔らかい堅さを持っているということで高級なピアノに使われてたそうです。でも、ワシントン条約でアウト。ってことでこれと似た特性を持つ高分子(アセチルセルロース系とか)を頑張って開発して使ってるようですねー。これで安心。ピアニストの方も高分子ばんざーいですね。

 芸術って「音楽」の他にもたくさんありますが、駆け足でご紹介。例えば「絵画」ですね。中学や高校のときに使った「アクリル絵の具」や「アクリルガッシュ」は名前のとおりアクリル樹脂という高分子を使ってます。あとは「ファッション」分野ではほとんどの素材は高分子ですからねー。これは光沢、発色、風合い、ムラ感なんかを研究して、いろんな繊維を作ることにチャレンジしてるみたいです。むちゃくちゃ安くなったフリースなんかも高分子の固まりですね。ユニクロも高分子ばんざーい。そいで、建築芸術にもFRPなんかいろいろ使われてるし。あとは昔々の遺跡なんかを保存するのにポリエチレングリコールなんか使ってるらしいし、原爆ドームなんかもエポキシ樹脂を使って保存してるということで、こういう所にも高分子科学がはびこってます。

ってなかんじで、高分子科学と芸術ってけっこう関係してると思いませんか?僕には、良い芸術作品を。っていう考えのもと、お互い協力してるように思えます。ちなみに今回はちょっと冷静に書いてみました。


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